分裂の仕組み
爪にジェルネイルの加工をしながら鳩子はふいに目を逸らした。横では色とりどりのラメとスワロフスキー風ガラス細工で加工されたストラップが、ブーン、ブーンと振動している。繋がるスマートフォンには、「着信:下着屋」との表示。いまは、右手の爪をLEDライトの下に入れて固めている最中なので出ることができない。かろうじて残された左手で、通話ボタンを押しハンズフリー機能に切り替える。
「ーーーもしもし、鳩子さんですか?」
丁寧な声で下着屋は言う。
「さっきのことなんですが、ぜんぶ、間違いなんです。僕は・・・」
僕は。
なんだというのか。
話は昨日に遡る。
鳩子は三軒茶屋のコールセンターで働く派遣OL。下着は締め付けない、ここ数年流行している「ふんどし型」のパンツと決めていた。「男は行為の時に、女性の下着なんてそんなに見ていない」というのが、千葉の田舎から上京したのち、大学に入り社会人になった25歳の彼女の覚えたことだった。もちろん「そんなに」見ていないというだけで、全く見ていないわけではない。
付き合って1年ほどになる志多木とは、合コンで出会った。正社員の就職にありつかず、敢えて派遣のOLとしての道を選んだ彼女にとって、男性に求めるものはなんといっても柔軟性であった。一昔前のように、「安定」や「男らしさ」って、わからない、と感じていた。どんなに計画を綿密に立てたって、核戦争や大地震でも起きれば一瞬ですべてが無くなる時代。そしてそれはかつての、我々の親世代のいう「1999年のノストラダムスの大予言」のような漠然としたものではなく、戦争や自然災害というリアルなものだ。